コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

寒い日には、やはりラーメンでしょう(米澤穂信「激辛大盛」「箱の中の欠落」)

ここしばらく過ごしやすい天候が続いていましたが、今日は急に寒くなりました。野暮用で、隣町まで自転車で向かったのですが、危うく凍え死ぬかと思いました(笑)

 

私は極度の寒がりでして(そして極度の暑がりなのです)、寒い日は暖房を効かせた屋内に引きこもりたいタイプであります。

そういえば、寒い日は、暖房の聞いた屋内でアイスなど、冷たい物を食べるのが最高の贅沢と言う人もいますね。そして、逆もまた然り。凍えるように寒い所で食べる温かい物の魔力は、計り知れないものがあります(笑)

 

温かくて美味しい食べ物など、枚挙に暇がないものですが、その中でも私は、何故か寒い日の”ラーメン”というシチュエーションに、何だか悪魔的な魅力を感じます。常々不思議に思っているのですが……(笑)

 

という訳で、本日は作家の描く”ラーメン”について、取り上げたいと思います。

印象的な”ラーメン”として、例えば、森見登美彦の「猫ラーメンがありますが、これは後日、夜は短し歩けよ乙女の映画公開が迫った時にでも紹介するとしまして(笑)、本日は、森見同様、現在大変人気のある作家、米澤穂信が描く”ラーメン”を取り上げたいと思います。

 

数々のミステリ・ランキングに毎年名を連ね、山本周五郎賞(個人的に、直木賞より信頼しています)、日本推理作家協会賞なども受賞しており、直木賞候補にもなった米澤。代表作としてまず筆頭に挙げるならば、やはり氷菓をはじめとする古典部〉シリーズになるでしょうか。

 

その〈古典部〉シリーズの最新刊、「いまさら翼といわれても」に収録されている「箱の中の欠落」に、実に美味しそうな”醤油ラーメン”が出て来ます。

 

俺の前に、醤油の香りもかぐわしいラーメンが置かれる。麺は細めの縮れ麺、スープは醤油色に澄んでいてチャーシューは二枚、メンマも二枚で、丼の中央には緑も鮮やかな茹でホウレン草がこんもりと据えてある。 

 

スタンダードな醤油ラーメンには変な癖がなく、やや塩気が多いようだが、そこがむしろラーメンを食べたという満足感に繋がっている。ラーメンにホウレン草を入れたことはなかったが、いざ食べてみると、どうしてこれまで入れてなかったのかと思うほど馴染んでいる。そして、これは良いのか悪いのか判断に困る点だが、どういう仕掛けなのかスープがやたらに熱かった。 

 

「醤油色に澄んでいて」というのが良いですねえ(笑)。そして「やや塩気が強い」。最近は健康のために塩分控え目……と言いますが、やはり”ラーメン”にはガツン!としたインパクトが欲しいです(笑)

 

いまさら翼といわれても

いまさら翼といわれても

 

 

オーソドックスな”醤油ラーメン”も嬉しいですが、これでは刺激が足りない!と言う方もいらっしゃるかもしれません。米澤の代表作として、〈小市民〉シリーズも有名ですが、これの二作目夏期限定トロピカルパフェ事件収録の、その名も「激辛大盛」では、主人公とその友人が”タンメン激辛大盛”を食べています。

 

赤いカウンターに、ぼくは肘をついた。厨房では店主がざるに大盛の野菜、ピーマン、にんじん、玉葱、キャベツにもやしを中華鍋にあけた。水分の爆ぜる派手な音が店中に響き渡る。

 

「はいよ、タンメン激辛大盛お待ち!」

……洗面器のようなサイズの丼に、まるでソフトクリームのような円錐状に、野菜がそそり立っている。スープも麺も見えないんですが……。 

 

何となく、巷で有名な蒙古タンメンを彷彿とさせます。間違いなく身体はポカポカ……を通り越して、汗がだらだらになりそうです(笑)

 

〈小市民〉シリーズは、それぞれ「春期限定いちごタルト事件」「夏期限定トロピカルパフェ事件」「秋期限定栗きんとん事件」、そして最新短篇「巴里マカロンの謎」があり、題名から分かる通り、様々なスイーツが出て来て、読んで美味しい、楽しい作品です。

ちなみに私のおすすめは、「夏期限定トロピカルパフェ事件」収録の「シャルロットだけはぼくのもの」。中々に完成度が高い逸品です。

 

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

 

コミカライズもされているそうです。

 

 明日も最低気温は零度になる予定らしいです。是非”ラーメン”を食べて身体を温めた後は、暖房の効いた屋内で読書……というのは、いかがでしょうか?

 

国分寺「紅」にて、 看板メニュー「紅ラーメンを頂きました。パンチのある具とスープに、主張の強い麺。中々美味しかったです(笑)

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続・村上春樹の作品と食(「騎士団長殺し」にもやはり……!(笑))

 本日二月二十四日、遂に発売されました村上春樹「騎士団長殺し」

折角だからと、当ブログでは昨日、村上作品と食について取り上げました。

 

hontocoffee117.hatenablog.com

 

昨日のブログでは最後、村上作品に”サンドウィッチ”が頻出していることから、もしかしたら「騎士団長殺し」にも”サンドウィッチ”が出て来るのでは……?と書きました。

 

元々私はあまり村上作品が好きではないですし、量も多いので、「騎士団長殺し」を読む予定はなかったのですが、このことがあって、どうしても”サンドウィッチ”が出て来るのか気になって仕方ない。

 

という訳(?)でして、「騎士団長殺し」に”サンドウィッチ”が出て来るのか、そのことを確認するため、書店へ(笑)

 

ただ、発売前から重版がかかっていると言われてましたので、

mainichi.jp

 

もしかしたら売り切れかな~とも思っていましたが、

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普通にありました(笑)。そういえば私の地元は、あまり文学好きな方がいないのか、こういう時売り切れた試しがないです。

 

首尾よく入手出来ましたが、第一部、第二部合わせて1000ページを超える長編作品です。長期戦を覚悟し、食料として”サンドウィッチ”を準備しました。

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準備万端。早速作業に取り掛かります。

 

 

あ、ありました。意外にすぐ出て来てびっくりです(笑)

 

書肆的な話ですが、「騎士団長殺し」は、ねじまき鳥クロニクルなどの過去の村上の長編作品と同様、何章もが連なった構成になっています。

さて、私における最重要事項()である”サンドウィッチ”は、第四章「みんな月に行ってしまうかもしれない」に出て来ました。

 

 

注目の”サンドウィッチ”の中身はと言いますと……”ハムとチーズのサンドウィッチ”でした。

 

 

うん、普通ですね。……いえ、別に問題はないのですけどね?

 

そういえば、”チーズのサンドウィッチ”は、羊をめぐる冒険を始め、村上作品における”サンドウィッチ”の具として中々にポピュラーな気もします。

 

僕はウエイターを呼んでメニューを見せてもらった。オムレツはなかったが、サンドウィッチはあった。チーズと胡瓜のサンドウィッチを注文した。添えものを訊くと、ポテト・チップとピクルスだった。ポテト・チップをやめてピクルスを二倍にしてもらった。

村上春樹羊をめぐる冒険」)

 

羊男はわかったといった風に肯いた。「あんたが行ってしまうとさびしいよ。まぁ仕方がないことだとは思うけどね。ところで、チーズ・サンドウィッチをもらっていいかな?」

「いいよ」

村上春樹羊をめぐる冒険」)

 

 ”チーズと胡瓜のサンドウィッチ”に沢山のピクルス……、私だったら香ばしいものも欲しいですから、”ポテト・チップ”はキープしますかね(笑)

 

ちなみに、「羊をめぐる冒険」ではさらっと書かれるのみですが、”オムレツ”と村上は、実は縁が深い。村上のエッセイ集「サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3」「オムレツを作ろう」で、そのことが確認出来ます(それにしても、村上のエッセイは、作品に比べて随分読みやすいですね(笑))。

村上ラヂオ3: サラダ好きのライオン (新潮文庫)

村上ラヂオ3: サラダ好きのライオン (新潮文庫)

 

 

ちなみに、「騎士団長殺し」には、他にも食べ物が出て来ます。私としては、”ラム入りのコーヒー”が気になりました。「コォヒィのブログ」と名乗っているだけあって、コーヒーが好きなんです(笑)

 

”サンドウィッチ”とコーヒーの組み合わせって、結構定番ですよね。実は第四章「みんな月に行ってしまうかもしれない」の”ハムとチーズのサンドウィッチ”にも、コーヒーが添えられています。

 

 

という訳で、村上作品の”サンドウィッチ”シリーズに、新たに「騎士団長殺し」の”ハムとチーズのサンドウィッチ”が追加されたのでした(笑)

 

 

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 

 

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

 

 

 

 

村上春樹の作品と食

明日二月二十四日は、村上春樹の新作長編「騎士団長殺し」発売日です。

www.shinchosha.co.jp

 

 

既に重版がかかっているそうです。相変わらず絶大な人気があります。

(※しかし、書店に行ったら普通に陳列されていましたけど……(笑))

 

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 

 

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

 

 

 

私はあまり村上作品は好きではないので、今のところ購入予定はありません。それに、「書下ろし二千枚」とあっては、気軽に手も出ませんし(笑)

 

しかし、折角話題になっていることですので、今回は村上と食について取り上げようかと思います。

 

 

ところで、読書中、皆さんは何か食べたり、飲んだりすることをどう思いますか?

私は本を汚したくないので、出来るだけ避けているのですが、例えば長編小説なんかを読んでいる際には、どうしても何か食べたり、飲んだりしたくなります。

 

例えばそうですね……”クッキー”とか。それと、”コーヒー”もあったら嬉しいですね。

 

でも僕はためしにチョコレート・クッキーを皿に盛って出してみた。加納クレタはそれをおいしそうに四個食べた。僕もクッキーを二個食べ、コーヒーを飲んだ。

村上春樹ねじまき鳥クロニクル」) 

 

ちょっと無理やりでしたかね(笑)

作品は、読売文学賞を受賞した長編作品ねじまき鳥クロニクルです(何も関係ないと思いますが、「ねじまき鳥」と聞くと、つい「ドラゴンクエスト」を連想します)。

 

食べやすいとは言っても、”クッキー”を食べるとどうしても手が汚れてしまいます。一々拭くのも面倒くさい……。それでしたら、”ドロップ”などはいかがでしょうか。

 

ポケットからレモンドロップを取り出し、包み紙を開いて口の中に入れた。仕事を辞めたのを機会に煙草をやめたのだが、そのかわりレモンドロップを手元から離せなくなっていた。「レモンドロップ中毒」と妻は言った。

村上春樹ねじまき鳥クロニクル」)

 

 

面白い作品は、ついつい時間を忘れて読みふけってしまうものです。「騎士団長殺し」を読んでいたら、気付いたら真夜中……なんてこともあるかもしれませんね。

こういう時はお菓子だと物足らないもので、かといって真夜中にあまり食べ過ぎるのも気が引けます。そうですね……”サンドウィッチ”などは、最適かもしれません。

 

実は村上作品には、実に多種多様なサンドウィッチが出て来ます。例えば、先ほどから引用している「ねじまき鳥クロニクル」なら、”トマトとチーズのサンドウィッチ”です。

 

僕は台所に立ってパンを切ってバターとマスタードを塗り、トマトのスライスとチーズをはさんだ。そしてそれをまな板の上に載せ、包丁で半分に切ろうとしていたのだ。

村上春樹ねじまき鳥クロニクル」) 

 

デビュー作であり、群像新人文学賞を受賞した風の歌を聴けでは、”レタスとソーセージのサンドウィッチ”です。

 

彼女は裸の まま起き上がり、冷蔵庫を開けて古いパンをみつけだし、レタスとソーセージで簡単なサンドウィッチを作り、インスタントのコーヒーと一緒にベッドまで運んでくれた。

(略)

「芥子はなかったわ。」

「上等さ。」

村上春樹風の歌を聴け」)

 

「1973年のピンボール”椎茸とほうれん草のサンドウィッチ”羊をめぐる冒険野間文芸新人賞受賞)の”チースのサンドウィッチ””チーズと胡瓜のサンドウィッチ”や、豪華なものでは「螢」”ロースト・ビーフ・サンドウィッチ”など、他にも多種多様な”サンドウィッチ”があります。

 

このように、頻繁に”サンドウィッチ”を作品に出す村上ですが、谷崎潤一郎賞受賞作世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドでは、”サンドウィッチ哲学”のようなものも披露しています(笑)

 

 私はソファーに対するのと同じようにサンドウィッチに対してもかなり評価の辛い方だと思うが、そのサンドウィッチは私の定めた基準線を軽くクリアしていた。パンは新鮮ではりがあり、よく切れる清潔な包丁でカットされていた。とかく見過されがちなことだけれど、良いサンドウィッチを作るためには良い包丁を用意することが絶対不可欠なのだ。どれだけ立派な材料を揃えても包丁が悪ければおいしいサンドウィッチはできない。

村上春樹世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」)

 

ちなみに、この場面で「私」が食べているのは、”キュウリとハムとチーズのサンドウィッチ”で、後の文章を読むと、”マスタード”、”レタス”、”マヨネーズ”も入っていることが伺えます。

 

”サンドウィッチ”の多種多様性は、”サンドウィッチ”という料理の自由性に因していると思います。つまり、パンさえあれば、中身は冷蔵庫の残り物で大丈夫な訳ですから、これは、夜食に大変都合が良い(笑)

 

 

もしかしたら「騎士団長殺し」にも、”新作サンドウィッチ”が出てくるかもしれません。内容より、むしろそちらが楽しみな気もしています(笑)

 

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装丁は好きなのですが、内容は……(笑)

 

志賀直哉と小林多喜二と”蟹”

本日二月二十日は、志賀直哉の誕生日であり、小林多喜二の命日です。

 

一見関係のなさそうな両作家ですが、実は書簡での交流、そして昭和六年には、奈良県志賀の家に、小林は訪問、滞在しています。

 

実は、小林は志賀の作品の愛好者でありました。小林の初期の作風、例えば、全集の第一巻などに収録されている作品を見ると、プロレタリア文学の趣は全くなく、人道主義的な作品であったり、「愛」をテーマにした作品が目立つことが分かります。

 

それに、そもそも私小説プロレタリア文学は、隣接した文学ジャンルであると考えられます。プロレタリア文学も作者の体験、思想を基に作られることが多いですし、私小説も単なる事実の記述ではありません。

 

と、まぁ文学についての話はこれくらいにして(笑)、今回は、そんな志賀と小林の食を、小林の代名詞蟹工船に合わせ、”蟹”について紹介します。

 

 

まずは、小林からです。

しかし、残念(?)なことに、「蟹工船」には”蟹”を食べる場面が出てこない。成程、当然と言えば当然で、プロレタリアに”蟹”を食べる権利は与えられていなかった訳です。

では、そんなプロレタリア食べていたものは、一体何だったのでしょうか?

 

箸では食いづらいボロボロな南京米に、紙ッ切れのような、実が浮んでいる塩ッぽい味噌汁で、漁夫等が飯を食った

小林多喜二蟹工船」)

 

「一万箱祝」を兼ねてやることになり、酒、焼酎、するめ、にしめ、バット、キャラメルが皆の間に配られた。 

小林多喜二蟹工船」)

 

「酒」は日本酒を意味し、他のアルコール飲料とは区別されるのが、当時の常ですから、「酒、焼酎」となっています。

「紙ッ切れ」の様な具は、油揚げですかね?それとも干からびた大根?それに、「にしめ」の具材も気になります。

ただ確実なのは、あまりにも酷い食事である、という事ですが……。

 

 

さて次は、志賀に移りたいと思います。

志賀と食と来れば、勿論思い起こされるのは“寿司”……「小僧の神様」の“寿司”かと思います。全く関係ないですが、「小僧の神様」を読むたびに、寿司チェーン店の小僧寿しを連想するのは、私だけでしょうか?(笑)

 

志賀の“蟹”についての記述は、「痴情」という作品に出て来ます。この作品は俗にいう志賀の〈浮気もの〉の一つ。

そう、志賀は意外に破天荒な自由人で、褒められないことを多々やってのけているのです(笑)


「痴情」において、“蟹”は、浮気相手の女の形容に使われています。

 

女には彼の妻では疾の昔失はれた新鮮な果物の味があつた。それから子供の息吹と同じ匂ひのする息吹があつた。北國の海で捕れる蟹の鋏の中の肉があつた。これらが總て官能的な魅力だけといふ點、下等な感じもするが、所謂放蕩を超え、絶えず惹かれる気持を感じてゐる以上、彼は猶且つ戀愛と思ふより仕方なかつた。そして彼はその内に美しさを感じ、醜い事をもみにくいとは感じなかつた。

 

蟹の肉は白くて美しく、つややかな光沢をはらんでおります。「北國」という所に志賀のこだわりを感じますね。さぞかし美しい女の肉体が想像されます。

 

 

“蟹”の事を考えていたら、無性に食べたくなってきましたので、スーパーに行きました。
鮮魚売場になかったので、缶詰売場を確認した所、安いものでは三百円しないものもありましたが、高いものでは二千円を超えていて、びっくりしました(笑)。

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勿論、購入したのは一番安い「まるずわいがにほぐしみ」です。

 

“蟹”を食べている最中は無言になると言いますが、私としては、それよりも何よりも、値段に無言……という感じですかね。

 

 

森鷗外の饅頭茶漬けを食べる

 本日二月十七日は森鷗外の誕生日です。

hontocoffee117.hatenablog.com

 

既に森鷗外の食についてのエピソードは紹介しました。

 

折角なので、何か食べよう……と思いましたが、果物は高いし、魚も、特に鰻も高い。シャンパンなんて論外……となると、残されたのは饅頭茶漬けのみ(笑)

 

まぁ、私自身、自他ともに認める(?)甘党です。それに、いつか食べてみたいと思っていましたから、良い機会と言えば良い機会。饅頭茶漬けを作ることにしました。

 

ただ、前回の記事で書いたように、葬式饅頭が手に入りませんし、そもそも私は、実物を見たことがありません。しかし、森茉莉によれば「ふつうのお饅頭の五倍」とありますから、ここで「ふつうのお饅頭」を使っては見栄えがしない。

 

考えた結果、あんまんで代用することにしました。五倍あるかは分かりませんが、これなら「ふつうのお饅頭」よりは、間違いなく大きいです。

 

という訳で、材料は以下の通り。

 

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お茶が溢れたら困るので、ご飯は丼によそいました。大体茶碗一、五杯分くらいの量です。

 

さて、次はあんまんを八つ割にしてご飯に……という所で、アクシデントが発生しました。

 

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あんまんの中のあんこは、ペースト状で非常にゆるいので、とてもじゃないですが八つ割に出来ません(笑)

六つ割で断念。手がべとべとになりました……。

 

気を取り直して。これに熱々のお茶をかけます。

 

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お茶漬けの添え物には、漬物が定番。茉莉によれば、鷗外は茄子や白瓜の漬物が好きであったとのことですが、家には大根のべったら漬けしかなかったので、こちらで代用します。

 

完成しました。間違いなく鷗外の誕生日効果でしょう。何だか美味しそうに見えます

 

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食べてみましたが、別に食べれない味ではありませんでした。まぁ類似品にお汁粉がありますから、予想通りと言えば予想通り(笑)

お汁粉に比べて、お茶をかけているため、さっぱりしているのが特徴でしょうか?ただ、だるだるになったあんまんの皮がやや不快でしたね(笑)

 

皮の堅い、粒あんの饅頭であれば、もっと美味しくなるかもしれません。二回目があるかは謎ですけど(笑)

森鷗外、実は一番変かも……?(笑)

二月十七日は、夏目漱石と双璧を成す文豪森鷗外の誕生日です。

 

鷗外が生まれたのは一八六二年漱石は一八六七年なので、実は、鷗外は漱石より五歳年上なんです。つまり今年は、鷗外生誕一五五年の年となります。

 

二月十七日は、加えて梶井基次郎の誕生日です。

文学史に名前を轟す二人の作家の誕生日が同じというのは、何だか面白く感じます。が、私は梶井の好きな食べ物を知りませんので、自販機でホットレモンを買って、梶井のお祝いは一先ず済んだということにしてしまいます(笑)

 

 

という訳で、本日は鷗外の食について、取り上げようかと思います。

 

鷗外の娘に、作家の森茉莉と言う人がいます。茉莉は、「父鷗外の思い出―父の三十三回忌に」という随筆で、次のように書いています。

 

私は「恋人」を持った事がなかった。私の最初の恋人は白い花であり父で、あった。 

 

この言葉に象徴されるように、茉莉は鷗外についての文章を数多く書いており、勿論その中には、鷗外の食についての情報も色々あります。

 

例えば、鷗外の食についてのエピソードで、最も有名な饅頭茶漬け。これも茉莉の随筆「鷗外の好きな食べ物」「鷗外の味覚」に、しっかり書かれております。

 

私の父は変った舌を持っていたようで、誰がきいても驚くようなものをおかずにして御飯をたべた。
どこかで葬式があると昔はものすごく大きな饅頭が来た。葬式饅頭といっていたもので、ふつうのお饅頭の五倍はある平たい饅頭で、表面は、釣り忍に使うあの、忍草を白く抜いて焦がしてある。(略)その饅頭を父は象牙色で爪の白い、綺麗な掌で二つに割り、それを又四つ位に割って御飯の上にのせ、煎茶をかけて美味しそうにたべた。

森茉莉「鷗外の味覚」)

 

現在では、ここに書かれているような大きさの饅頭を手に入れることは困難かと思われます。私(大学生)など、葬式饅頭というもの自体見たことがないくらいです。

 

日本の有名な作家には、何だか甘党が多いように思われます。前述の漱石も……というより、漱石ほど甘党のイメージが強い作家もいないかもしれませんが、漱石は、甘い物をそれ自体で楽しむのに対し、鷗外は御飯のおかずとして採用している訳で、何だか漱石より凄まじい気がするのは、私だけでしょうか?(笑)

 

また、茉莉によれば、鷗外は果物を次のようにして食べたと言います。

 

 独逸の衛生学にこり固まっているから、子供に生水を飲ませるな、と言い、果物も煮て、砂糖をかけて食わせた。どういうわけか林檎は煮なくてよかった。父と暮らしていた間は、二月の梅から始まって、杏、水密、深紅な桃、梨と、私たちはいつも食事の後のデザートとしてそれらの煮たのをたべた。

(森鷗外「鷗外の好きなたべもの」)

 

いわば、これは陸軍軍医として鷗外の姿。衛生学と言えば高尚ですが、現代的に言えば、まぁ潔癖症でしょう(笑)。ここからは、何となく泉鏡花を連想します。

ただ、茉莉によれば、

 

又もう一つ変わっているのは、お刺身が出ると火鉢にかけて、自分で醤油と酒少し入れてサッと煮てたべるのである。 

(森鷗外「鷗外の好きなたべもの」)

 

とありますので、鏡花ほどには、病的な潔癖症ではなかったのでしょうか。

しかしまぁ、この食べ方は、変則的ではありますが、いわば果物のコンポートと、魚のしゃぶしゃぶ

こう考えてみると、普通に美味しそうですね(笑)

 

魚と言えば、鷗外作品には、魚によって恋が叶わずに終わると言う作品がありました。

自我の萌芽と挫折が書かれた、「雁」のことです。

 

西洋の子供の読む本に、釘一本と云う話がある。僕は好くは記憶していぬが、なんでも車の輪の釘が一本抜けていたために、それに乗って出た百姓の息子が種々の難儀に出会うと云う筋であった。僕のし掛けたこの話では、青魚の未醤煮が丁度釘一本と同じ効果をなすのである。

 

「僕」が「青魚の未醤煮」、つまりサバ味噌の持つ「名状すべからざる寄宿舎の食堂の臭気」の「究極の程度」を嫌がったことで、お玉と岡田の恋は果たされず終わるのです。

鷗外は、サバ味噌に何か恨みでもあったのでしょうか?(笑)

 

私などは、この時期に、濃い目に煮いたサバ味噌を、熱燗で一杯やることを、非常に良いものだと思っているのですが……親父臭いですかね?(笑)

 

熱燗と言えば、鷗外の作品の中で、これこそ名作と名高い渋江抽斎には、奇妙な酒の飲み方が出て来ます。

その名も、「鰻酒」です(笑)

 

鰻を嗜んだ抽斎は、酒を飲むようになってから、しばしば鰻酒ということをした。茶碗に鰻の蒲焼を入れ、些しのたれを注ぎ、熱酒を湛えて蓋を覆って置き、少選してから飲むのである。抽斎は五百を娶ってから、五百が少しの酒に堪えるので、勧めてこれを飲ませた。五百はこれを旨がって、兄栄次郎と妹壻長尾宗右衛門とに侑め、また比良野貞固に飲ませた。これらの人々は後に皆鰻酒を飲むことになった。

 

蒲焼のたれ、鰻の旨味、脂、そして香ばしさが酒(日本酒でしょう)に混ざる訳です。おでんの汁を日本酒で割って飲む人もいますから、まぁありと言えなくもないのでしょうけれど、私はちょっと遠慮したい(笑)

 

鷗外の誕生日を祝う酒です。ちょっと良いものを……そうですね、シャンパなどはいかがでしょう?

 

 渡辺はすわったままに、シャンパニエの杯を盛花より高くあげて、はっきりした声でいった。
“Kosinski soll leben !”

(森鷗外「普請中」)

 

シャンパンを飲みすぎたら、酔い覚ましには、饅頭茶漬け……ですかね?(笑)

 

 

森鴎外「雁」、「渋江抽斎」、「普請中」は青空文庫で読むことが出来ます。よろしければどうぞ。

森鴎外 雁

森鴎外 渋江抽斎

森鴎外 普請中

日本文学に描かれたチョコレート

本日二月十四日はバレンタインデーです。

バレンタインデーに贈る物と言えば、やはりチョコレート。最近では、チョコレート以外の物であったり、女性から男性のみならず、同性間であったり、何故か男性から女性に贈ったりもするみたいですが……。

この場合、ホワイトデーには、女性が男性にお返しするんでしょうか?(笑)

 

さて、日本文学とチョコレートと言えば、まず第一に挙がるのが、木下杢太郎の詩、その名もずばりの「楂古聿」(チョコレート)でしょうか。

 

そは支那店の七色の

玻璃を通し、南洋の

土のかをりの楂古聿

 

杢太郎のこの詩は一九〇七年のもの。この詩からは、当時まだまだチョコレートは「異国の物」であったということが分かります。

 

西條八十は、詩人として、作曲家として実に多くの作品があります。また、「赤い鳥」の同人として、童謡も盛んに書いていました。そんな西條ですから、当然子供の好きなチョコレートを、作品に盛り込まないはずがありません。

 

山のおくの谿あいに

きれいなお菓子の家がある

門の柱は飴ん棒

屋根の瓦はチョコレイト

左右の壁は麦落雁

踏む敷石がビスケット

(略)

西條八十「お菓子の家」)

 

 (略)

ガッタンコッコ ガッタンコ お菓子の汽車が急ぎます

長い煙突アルヘイ糖 つながる箱はチョコレート

(略)

西條八十「お菓子の汽車」)

 

「お菓子の家」の方は、何となく「ヘンゼルとグレーテル」を連想します。作中のお菓子の家に、子供の頃、とても憧れたのを覚えております(笑)

 

童話で有名な小川未明に、「飴チョコの天使」という作品があります。「飴チョコ」とは馴染みのない言葉ですが、どうやらキャラメルのことであるそうです。

www.joetsutj.com

 

確かに、キャラメルはチョコレートに似た色をしております(笑)。キャラメルは、どちらかと言えばホワイトデーのものですかね。

 

チョコレートのみならず、お菓子はとても美味しいですから、ついつい食べ過ぎてしまうなんてこともありがちでしょう。

ドグラマグラ「少女地獄」で有名な夢野久作は、実は童話作家としての一面もあります。「お菓子の大博覧会」では、お菓子大好きの少年”五郎さん”が主人公。贈られたお菓子を、一箱すべて、一時に食べてしまいます。

 

五郎さんはもう夢中になって 、鋏を持って来て小包を切り開いて見ると、それは思った通りお菓子で、しかも西洋のでした。…ドロップ、ミンツ、キャラメル、チョコレート、ウエファース、ワッフル、ドーナツ、ローリング、ボンボン、その他いろいろ、ある事ある事……。

 

勿論、これだけのお菓子食べたら、当然腹の具合が悪くなります。夢野は、それを童話らしく、お菓子たちの”仕業”として書くわけです。

 

「こんなに大勢、一時にお菓子たちがお腹の中に揃った事は無いわねえ」

とお嬢さん姿のキャラメルが云いました。

「そうだ、そうだ。それに五郎さんの胃袋は大変に大きいから愉快だ」

と道化役者のドロップが云いました。黒ん坊のチョコレートは立ち上がって、

「一つお祝いにダンスをやろうではないか」 

 

バレンタインデーには、お母さんから子供にチョコレートを贈る、なんてことも多いかと思います。食べ過ぎ防止のために、夢野の「お菓子の大博覧会」を読み聞かせて上げるというのは、どうでしょうか?(笑)

 

さて、最後に、日本が誇る甘党文豪、夏目漱石の書いたチョコレートを紹介して終わろうかと思います。

漱石作品、有名なものが数多くあります。しかし中でも一番読まれている作品と言えば、やはり「こころ」ではないでしょうか?

実は、この「こころ」に、チョコレートが出て来ます。

 

私はその翌日午飯を食いに学校から帰ってきて、昨夜机の上に載せて置いた菓子の包みを見ると、すぐその中からチョコレートを塗った鳶色のカステラを出して頬張った。そうしてそれを食う時に、必竟この菓子を私にくれた二人の男女は、幸福な一対として世の中に存在しているのだと自覚しつつ味わった。 

 

今年は漱石一五〇年のメモリアルイヤー。誕生日には遅れましたが、漱石の書いた「チョコレートを塗った鳶色のカステラ」で、漱石の誕生と、バレンタインデーのお祝いをすることにします(笑)

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小川未明「飴チョコの天使」、夢野久作「お菓子大博覧会」、夏目漱石「こころ」は、青空文庫で読むことが出来ます。よろしければどうぞ。

小川未明 飴チョコの天使

夢野久作 お菓子の大舞踏会

夏目漱石 こころ