コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

江戸川乱歩について

好きな作家は数多くおりますが、その中でも特にと言われた際、迷わず選ぶ作家の一人が、江戸川乱歩であります。私にとって初めて全集を買った作家であり、全集を読破した作家です。今回はそんな江戸川乱歩について語りたいと思います。

 

江戸川乱歩、これが筆名であることは有名でしょう。乱歩は自身の敬愛した偉大なるアメリカの文学者、エドガー・アラン・ポーの名前を借りて作家となります。デビュー作は二銭銅貨これは所謂「本格探偵小説」でありました。

 

しかし、「本格探偵小説」作家として華々しくデビューし、次々に作品を発表した乱歩でありましたが、次第にアイデアがなくなり書けなくなっていきます。しかし、生活のためには書かねばなりません。そのような中で乱歩が至ったのが、大衆小説家への道でした。

大衆小説家として、乱歩は「黄金仮面」や「黒蜥蜴」、「怪人二十面相などを世に出し、日本文学の進展に貢献しました。この点からしましても、乱歩の実績は比類なく、十分に偉大であると言えますが、乱歩にとって、それはあくまで「虚名」恥ずべきものであったようです。

 

 「蜘蛛男」「魔術師」「黄金仮面」と講談社ものを書き続けているうちに、私は従来にない虚名を博するに至った。従来の探偵読者や、インテリ読者には見はなされたが、ともかく全国的に筆名を知られるようになった。(略)私は一方で大いに気をよくしながら、一方で極度に羞恥を感じるという、手におえない惨状に陥っていた。

江戸川乱歩「探偵小説四十年(上)」)

 

これらの「講談社もの」の執筆は昭和五年の時期ですが、世間の評判と裏腹に、乱歩は苦悩していた訳です。しかし、その苦悩と裏腹に、乱歩は大衆小説家として期待され、手腕を発揮していきました。

 

近年の乱歩作品の映像化状況を見ますと、ドラマでは二〇一五年十二月には真矢ミキ主演「黒蜥蜴」が放送されましたし、アニメでは二〇一五年七月には「乱歩奇譚 Game of Laplace」、二〇一六年十月は「TRICKSTER江戸川乱歩「少年探偵団」より―」がそれぞれ放送されましたが、「黒蜥蜴」も「少年探偵団」も大衆小説であり、「乱歩奇譚」は広く乱歩作品を扱っていたようですが、主軸には明智小五郎と小林少年という「少年探偵団」の主要人物をモチーフとしたキャラクターが配置されています。ここからも、「大衆小説家としての乱歩」のイメージの強さを伺える…と言えるのではないでしょうか。

 

昨年著作権が切れ、乱歩は青空文庫で読めるようになりました。本格探偵小説である二銭銅貨猟奇小説の傑作人間椅子」「芋虫」耽美小説の佳品押絵と旅する男などの傑作が、より多くの人に読まれることで、作家として、一段低く見られがちな乱歩の評価の改善されていくことが、望まれてなりません。