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コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

文学の中のヒロインたちへ(上田秋成『雨月物語』と江戸川乱歩「黒蜥蜴」)

小説 文学 読書 恋愛

 今週のお題「恋バナ」

 

恋愛の記憶と言って、人に話せるほどの大それたものは私にはありませんので(笑)、やや趣は違うかもしれませんが文学の中のヒロイン」たちへの恋心…のようなものを、書かせて頂こうかと思います。

 

①『雨月物語』「浅茅が宿」の死後も夫を待ち続ける妻宮木

 上田秋成雨月物語』は江戸時代に書かれた作品であり、著者秋成の代表作であります。この作品は、日本古典だけでなく、中国小説(白話小説と読んだりします)への造詣も深かった秋成の筆の冴えた逸品であります。全九編からなる作品ですが、今回はその中の一篇浅茅が宿」の宮木を紹介します。

 

~あらすじ~

舞台は戦国時代の下総国宮木の夫である勝四郎は、自分のせいで没落しつつあった家の再起を図り京へ行って絹を売り大儲け。しかし、故郷への帰路で山賊にその儲けた金を奪われてしまいます。また、この先にある関所は通行止め。自身の状況を宮木に知らせる方法もないし、この分では妻ももう生きてはいるまい(この時丁度、関東は戦乱の真っただ中にありました)と思い、勝四郎は縁を頼りそこへ移り住み、七年間暮らします。

さて、そんなある日、ふと勝四郎は宮木のことを思い出します。例え死んでいるにせよ、せめて弔ってやらなければならない。そう思い、勝四郎は故郷に帰ります。

七年振りに帰った故郷は案の定荒廃していましたが、不思議なことに、自分の家だけは昔のままの状態で、そこには宮木の姿がありました。勝四郎と宮木は七年越しの邂逅に涙を流して喜びます。

しかし、翌朝勝四郎は目が覚めると、自分が荒廃した家で、宮木もいず、一人寝ていることに気づきます。そう、やはり宮木は既に死んでいたのです。

その後、土地の老人に聞きますと、宮木は勝四郎が京に行った翌年の八月十日に亡くなっていたということが分かりました。

 

現実的に考えれば、このような勝四郎を待つ宮木は、愚かな女であるように見えるかもしれません。しかし、やはり私は、どのような過酷な状況にあっても、ただ夫を思い待ち続け、そして死んでなお、夫の帰りを待ち続けた宮木の姿に胸を打たれてしまうのです。

 

江戸川乱歩「黒蜥蜴」決して叶わぬ恋に苦しむ女怪盗黒蜥蜴

 江戸川乱歩「黒蜥蜴」は、乱歩作品の中でも特に有名な作品であり、知っている方も多いと思います。二〇一五年十二月には真矢ミキ主演版でドラマも放送されていました。実は三島由紀夫による戯曲版もあるんです。三島は乱歩の大ファンでした。今回は、そんな「黒蜥蜴」の主人公であり、名探偵明智小五郎に、決して叶わない恋をしてしまい、それに苦しむ女怪盗黒蜥蜴を紹介します。

 

話の内容は明智と黒蜥蜴による、乱歩曰く「おそろしくトリッキイでアクロバティックな冒険物語」(「あとがき」『江戸川乱歩全集』桃源社)であり、実際その通りなので、ここでは、特に印象的な場面を、作中から引用したいと思います。

 

「あたし、あなたに負けましたわ。なにもかも」

戦いに敗れた丈けではない。もっと別の意味でも負けたのだということを、言外に含ませて云うと、彼女は啜り泣きを始めた。もう上ずった両眼から、涙がとめどもなく溢れ落ちた。

「あたし、あなたの腕に抱かれていますのね。……嬉しいわ。……あたし、こんな仕合せな死に方が出来ようとは、想像もしていませんでしたわ」

 

「明智さん。もうお別れです。…お別れに、たった一つのお願いを聞いて下さいません?……唇を、あなたの唇を。……」

 

この場面は、最後、追い詰められた黒蜥蜴が毒を飲んだ後の場面です。初めて読んだとき、本当にドキドキしてしまいました「ここまで情熱的な恋が、果たして自分に出来るだろうか?」と。

※ちなみに「黒蜥蜴」は青空文庫にありますので、よろしければどうぞ。

江戸川乱歩 黒蜥蜴

 

ちなみに、我が家にある「黒蜥蜴」は光文社版全集です。

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書物の中のヒロインたちに恋をすること

書物の中のヒロインたちに恋をすること、これはまぁ、恐ろしく不毛な恋である訳であります。芸能人への恋、スポーツ選手への恋、憧れの人への恋…さまざまな恋がありますが、これらは全て現実にいる人への恋でありますから、例え殆ど可能性がゼロパーセントでも、ゼロではない訳です。詭弁になりますが(笑)

 

そこには自由な恋がある

しかし、逆に言えばそれが、より自由な恋をさせてくれることにもつながる訳です。要はこの恋は自分の頭の中でのみ成立するものですから、誰にも迷惑はかけないし、いくらでもロマンチックに、自分の理想の恋をすることが出来ます(笑)

何より文学の良いところは、文字で表現されているところ。文章から想像力を喚起して、自分の理想のヒロインを作ることが出来ます。

 

今回紹介出来なかったヒロインたちが沢山います。これは「元カノ」でしょうか?……いえいえ、今でもしっかり恋している「ヒロイン」ばかりです。このような浮気も許される。…存外、 「文学の中のヒロインたちに恋をする」というのも、悪くないですよ。