コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

二〇一七年から著作権切れとなった人たち(今年も中々豪華です!)

TPP問題で著作権が没後七十年まで延長される…という話がありましたが、そのTPPの行く末が、何やら胡乱な事態になってきました。個人的に、現行(没後五十年)のままでよいと思っておりますので、都合が良いといえば都合が良いのですが。

 

そのような訳で、二〇一七年も著作権は没後五十年までという制度が適用されました。今回は、その中で「特にこれ!」と個人的に思う人たちを紹介しようかと思います。

 

大下宇陀児

江戸川乱歩とともに、日本探偵小説草創期から活躍した作家であります。デビュー作は「金口の巻煙草」(一九二五年)です。大下について、乱歩は次のように述べています。

 

彼はその素質としてかたよった所がなく、探偵小説に、犯罪文学に、怪奇、幻想の物語に、恋愛小説にさえも、行くとして可ならざるものはないのであるが、その何れの作品にあっても、最も著しい特徴は、そこに盛られた豊かな感情描写にあると思う。(略)私は嘗つて彼を「感情の探検家」と呼んだが、大下宇陀児は人生のあらゆる感情を探し出して、それをマスターし、紙の上に再現しようとしているかに見える。

江戸川乱歩「鬼の言葉」)

 

乱歩の探偵小説、推理小説に対する審美眼は、確かに信頼出来るものではあるのですが、彼はまずそれらの愛好者であるので、やや評価が甘い(特に、同世代作家に対して)ので、彼の評をそのまま受け取ってはいけない(笑)

しかし、大下に実力があるのは事実であります。例えば「情獄」という作品がありますが、これはサスペンスとして現代でも十分に通用する作品であると思います。これは東京創元社「日本探偵小説全集〈3〉大下宇陀児 角田喜久雄集」や、光文社「江戸川乱歩と13人の新青年どで読むことが出来ます。よろしければどうぞ。

 

ちなみに、先日作家とすき焼きの話をしましたが、

 

hontocoffee117.hatenablog.com

 

実はすき焼きの話、乱歩と大下にもあるんです。乱歩の「探偵小説四十年(下)」(二〇〇六年二月、光文社)に、次のようにあります。

 

(昭和二十一年)十一月末、大下夫妻、水谷夫妻を招き牛肉スキ焼きと生ビールにて帰京挨拶の会を開く。

 

「水谷」とは水谷準のことです。有名な卓球選手の…ではなく(笑)、「探偵趣味」や「新青年」といった当時の探偵雑誌の編集者であり、小説家としても「ある決闘」や「胡桃園の青白き番人」などを発表した人です。

 

山中峯太郎

もう殆ど「忘れられた作家である」と述べてしまっても良いかもしれません。しかし、山中の書いた〈本郷義昭〉シリーズは、戦時下、子供たちに非常に愛されていました。開高健石原慎太郎大江健三郎江藤淳武田泰淳による座談会「戦後という時代」の中でも、開高や武田によってそのことが語られております。(中央公論新社江藤淳 1960」収録)

 

亀井勝一郎

評論家として、今でも読まれている人であるかもしれません。大下、山中と異なり全集も刊行されていますし、文庫の入手も容易であります。

しかし、亀井の著作権が切れることで最も有難いことは、太宰治に関する亀井の言及が、容易に読めるようになるということです。亀井と太宰は、一九三九年に太宰が東京の三鷹に引っ越して来たことを契機に、交友を結びました。

 

ちなみにですが、亀井の出身は青森県の函館。その函館の家の近所には、「キャラコさん」や直木賞受賞作「鈴木主水」で知られる久生十蘭が住んでいたそうです。(亀井勝一郎「北海道の系譜」より)

 

高畠華宵

竹久夢二と並んで、大正・昭和期の少女雑誌を彩った人物であります。個人的に、竹久夢二よりも華宵の描く女性の方が好きです。夢二の女性が日本的だとすれば、華宵の女性は西洋的であると言えるかもしれませんね。また、夢二の絵が日本的な幽玄さを持っているとすれば、華宵の絵は東洋的オリエンタリズムを醸している…と、個人的に思っております。

 

 その他、夏目漱石の門人であり、「三四郎」のモデルであると言われる小宮豊隆、同じく門人であり、芥川龍之介の著書の装丁に携わっていた小穴隆一、宗教家の鈴木大拙などの著作権も切れます。二〇一六年は江戸川乱歩谷崎潤一郎という二大巨頭の著作権が切れるということで話題になりましたが、二〇一七年も中々豪華であると言えましょう。

 

ちなみに、今回二〇一七年から著作権が切れた作家の作品で、青空文庫化されているものは以下の通りです。山中のものは、作品の内容はさておき、挿絵だけでも一見の価値があるかと思います。

 

大下宇陀児 擬似新年

山中峯太郎 小指一本の大試合

亀井勝一郎 馬鈴薯の花