コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

一冊目:開高健『パニック・裸の王様』(新潮文庫)

読書記録の記念すべき一冊目として紹介しますのは、開高健『パニック・裸の王様』新潮文庫)です。私が現在所有しているのは平成十七年六月五日版第七十三刷でありますから、文句なしに文学史に残る名作と呼んで良いと思います。

しかし、少なくとも私の周りには開高を読んだという人は一人もいないです。もう読まれなくなりつつある作家ということでしょうか。残念です。

 

これは私が常々遺憾に思っていることなのですが、開高は太陽の季節」で衝撃的デビューを果たした石原慎太郎、後のノーベル文学賞作家である大江健三郎に挟まれる形でデビューしたために、少々影が薄い(笑)。おまけに、文学史や論文などを見ておりますと、開高のデビュー時期は「石原・大江」と略されることが非常に多い。ただでさえ影が薄いのに、これはちょっとまずいです(笑)

 

さて、今回紹介します新潮文庫版には、その開高の文壇デビュー作である「パニック」、そして芥川賞受賞作である「裸の王様」に加え、同時期の「巨人と玩具」「流亡記」の四篇が収録されております。この中で特に私がおすすめしたいのは、何と言っても「パニック」であります。

 

「パニック」はネズミと人との戦いを描いた作品でありますが、同時にこの作品は組織と人間との戦いを描いた作品でもあります。そしてさらに言えば、この作品は社会に対する開高の戦いでもあると考えることが出来るのですが、何よりこの作品の魅力は、力強い文章から繰り出されるスリリングな面白さであると言えます。

 

「パニック」を読んでしまうと、「巨人と玩具」も「裸の王様」もそれはそれで面白いのですが、やた冗漫であり、また「パニック」の様な力強さが感じられません。「流亡記」は開高における変化のようなものを読み取ることができ、また佳品でもありますが、題材に頼りすぎて、作者の個性が感じられないように思えます。ですから、やはりまずは「パニック」を読むことをおすすめします。何でしたら、「パニック」だけでも良いので読んでいただきたいです(笑)

 

ちなみに、「パニック」は新聞記事が元ネタになっているんですが、この新聞記事を安部公房も見ていて、開高に「俺が書く」って宣言したらしく、それに焦った開高は急いで作品を完成させ発表したというエピソードがあります。

 

 

角川文庫版もあります。こちらは「巨人と玩具」の代わりに「なまけもの」が収録されております

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