コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

ノーベル文学賞作家の手料理

二〇一六年のノーベル文学賞ボブ・ディランに決まり、今回も受賞を逃した村上春樹ですが、新作長編が話題になっています。確かに、『騎士団長殺し』とは中々風変りですが、考えてみれば、日本が誇るノーベル文学賞受賞者である大江健三郎の作品名はもっと変わっています。

例えば、万延元年のフットボール」、「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」、「空の怪物アグイー」など。それに、村上だって過去に色々変わった名前の作品出してますし、まぁ重要なのは内容です。

 

さて、日本には二人のノーベル文学賞作家がいます。一人は川端康成、もう一人は前述の大江ですが、今回は大江に注目してみました。川端の話はまた後日取り上げようと思っております。

 

大江の随筆に「学生たちと食事して」(『言い難き嘆きもて』二〇〇四年十二月、講談社)というものがあります。この随筆の中で、大江は次のように書いています。

 

大学前をつらぬくナッソー大通りのスーパーに行くと、新鮮な牛の尾と、薫製にした豚の足とを売っている。ジャズを良く聴いていた昔も、安かった牛の尾でオックステイル・シチューを作り、豚の足は沖縄料理のアシテビチにして、家内を楽しませ(苦しませ?)たものだ。

 

ここで語られる「オックステイルシチュー」は大江自身大変お気に入りの料理であるようで、他の随筆にも書かれていました。また、小説では万延元年のフットボール一九八八年四月、講談社)の中で、詳細に書かれております。

 

僕は(略)昼食に食べたシチューの牛の尾の関節の一箇を克明に陰翳をつけてスケッチした。牡蠣の身の色をした尾骨には複雑な方向への様ざまな突起と陥没がある。そして生きて活動していた時代の牛の尾の力のためにどのような機能を果たしたか憶測することもできない、虫に巣食われたみたいな小さな穴、関節の両側の、ゼリー質のこびりついている丸い蓋のごときもの。僕は永ながと無意味なスケッチをした後、鉛筆を置いて、その蓋のごときもののゼリー質の残りを歯でしごき、味の記憶を更新すべく試みた。煮込むために使った固型スープと冷えた脂の味のみがする。 

 

全く美味しそうではないですね(笑)。でも実際に想像してみると、中々面白い場面だと思いませんか?また、小説においてはしっかり存在感を放っております。

万延元年のフットボール」は長編ですが、第三回谷崎潤一郎賞を受賞した作品でもありますので、興味がある方はどうぞ。

 

川端や村上に対し、大江って何だか謎に包まれている雰囲気があります(笑)。折角なので、今回取り上げたことをきっかけに、これから色々調べていきたいと思います。

 

 

折角なので料理の写真を。「オックステイルシチュー」ではなくビーフ・シチューですが……(笑)

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