コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

日本文学に描かれたチョコレート

本日二月十四日はバレンタインデーです。

バレンタインデーに贈る物と言えば、やはりチョコレート。最近では、チョコレート以外の物であったり、女性から男性のみならず、同性間であったり、何故か男性から女性に贈ったりもするみたいですが……。

この場合、ホワイトデーには、女性が男性にお返しするんでしょうか?(笑)

 

さて、日本文学とチョコレートと言えば、まず第一に挙がるのが、木下杢太郎の詩、その名もずばりの「楂古聿」(チョコレート)でしょうか。

 

そは支那店の七色の

玻璃を通し、南洋の

土のかをりの楂古聿

 

杢太郎のこの詩は一九〇七年のもの。この詩からは、当時まだまだチョコレートは「異国の物」であったということが分かります。

 

西條八十は、詩人として、作曲家として実に多くの作品があります。また、「赤い鳥」の同人として、童謡も盛んに書いていました。そんな西條ですから、当然子供の好きなチョコレートを、作品に盛り込まないはずがありません。

 

山のおくの谿あいに

きれいなお菓子の家がある

門の柱は飴ん棒

屋根の瓦はチョコレイト

左右の壁は麦落雁

踏む敷石がビスケット

(略)

西條八十「お菓子の家」)

 

 (略)

ガッタンコッコ ガッタンコ お菓子の汽車が急ぎます

長い煙突アルヘイ糖 つながる箱はチョコレート

(略)

西條八十「お菓子の汽車」)

 

「お菓子の家」の方は、何となく「ヘンゼルとグレーテル」を連想します。作中のお菓子の家に、子供の頃、とても憧れたのを覚えております(笑)

 

童話で有名な小川未明に、「飴チョコの天使」という作品があります。「飴チョコ」とは馴染みのない言葉ですが、どうやらキャラメルのことであるそうです。

www.joetsutj.com

 

確かに、キャラメルはチョコレートに似た色をしております(笑)。キャラメルは、どちらかと言えばホワイトデーのものですかね。

 

チョコレートのみならず、お菓子はとても美味しいですから、ついつい食べ過ぎてしまうなんてこともありがちでしょう。

ドグラマグラ「少女地獄」で有名な夢野久作は、実は童話作家としての一面もあります。「お菓子の大博覧会」では、お菓子大好きの少年”五郎さん”が主人公。贈られたお菓子を、一箱すべて、一時に食べてしまいます。

 

五郎さんはもう夢中になって 、鋏を持って来て小包を切り開いて見ると、それは思った通りお菓子で、しかも西洋のでした。…ドロップ、ミンツ、キャラメル、チョコレート、ウエファース、ワッフル、ドーナツ、ローリング、ボンボン、その他いろいろ、ある事ある事……。

 

勿論、これだけのお菓子食べたら、当然腹の具合が悪くなります。夢野は、それを童話らしく、お菓子たちの”仕業”として書くわけです。

 

「こんなに大勢、一時にお菓子たちがお腹の中に揃った事は無いわねえ」

とお嬢さん姿のキャラメルが云いました。

「そうだ、そうだ。それに五郎さんの胃袋は大変に大きいから愉快だ」

と道化役者のドロップが云いました。黒ん坊のチョコレートは立ち上がって、

「一つお祝いにダンスをやろうではないか」 

 

バレンタインデーには、お母さんから子供にチョコレートを贈る、なんてことも多いかと思います。食べ過ぎ防止のために、夢野の「お菓子の大博覧会」を読み聞かせて上げるというのは、どうでしょうか?(笑)

 

さて、最後に、日本が誇る甘党文豪、夏目漱石の書いたチョコレートを紹介して終わろうかと思います。

漱石作品、有名なものが数多くあります。しかし中でも一番読まれている作品と言えば、やはり「こころ」ではないでしょうか?

実は、この「こころ」に、チョコレートが出て来ます。

 

私はその翌日午飯を食いに学校から帰ってきて、昨夜机の上に載せて置いた菓子の包みを見ると、すぐその中からチョコレートを塗った鳶色のカステラを出して頬張った。そうしてそれを食う時に、必竟この菓子を私にくれた二人の男女は、幸福な一対として世の中に存在しているのだと自覚しつつ味わった。 

 

今年は漱石一五〇年のメモリアルイヤー。誕生日には遅れましたが、漱石の書いた「チョコレートを塗った鳶色のカステラ」で、漱石の誕生と、バレンタインデーのお祝いをすることにします(笑)

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小川未明「飴チョコの天使」、夢野久作「お菓子大博覧会」、夏目漱石「こころ」は、青空文庫で読むことが出来ます。よろしければどうぞ。

小川未明 飴チョコの天使

夢野久作 お菓子の大舞踏会

夏目漱石 こころ