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コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

森鷗外、実は一番変かも……?(笑)

二月十七日は、夏目漱石と双璧を成す文豪森鷗外の誕生日です。

 

鷗外が生まれたのは一八六二年漱石は一八六七年なので、実は、鷗外は漱石より五歳年上なんです。つまり今年は、鷗外生誕一五五年の年となります。

 

二月十七日は、加えて梶井基次郎の誕生日です。

文学史に名前を轟す二人の作家の誕生日が同じというのは、何だか面白く感じます。が、私は梶井の好きな食べ物を知りませんので、自販機でホットレモンを買って、梶井のお祝いは一先ず済んだということにしてしまいます(笑)

 

 

という訳で、本日は鷗外の食について、取り上げようかと思います。

 

鷗外の娘に、作家の森茉莉と言う人がいます。茉莉は、「父鷗外の思い出―父の三十三回忌に」という随筆で、次のように書いています。

 

私は「恋人」を持った事がなかった。私の最初の恋人は白い花であり父で、あった。 

 

この言葉に象徴されるように、茉莉は鷗外についての文章を数多く書いており、勿論その中には、鷗外の食についての情報も色々あります。

 

例えば、鷗外の食についてのエピソードで、最も有名な饅頭茶漬け。これも茉莉の随筆「鷗外の好きな食べ物」「鷗外の味覚」に、しっかり書かれております。

 

私の父は変った舌を持っていたようで、誰がきいても驚くようなものをおかずにして御飯をたべた。
どこかで葬式があると昔はものすごく大きな饅頭が来た。葬式饅頭といっていたもので、ふつうのお饅頭の五倍はある平たい饅頭で、表面は、釣り忍に使うあの、忍草を白く抜いて焦がしてある。(略)その饅頭を父は象牙色で爪の白い、綺麗な掌で二つに割り、それを又四つ位に割って御飯の上にのせ、煎茶をかけて美味しそうにたべた。

森茉莉「鷗外の味覚」)

 

現在では、ここに書かれているような大きさの饅頭を手に入れることは困難かと思われます。私(大学生)など、葬式饅頭というもの自体見たことがないくらいです。

 

日本の有名な作家には、何だか甘党が多いように思われます。前述の漱石も……というより、漱石ほど甘党のイメージが強い作家もいないかもしれませんが、漱石は、甘い物をそれ自体で楽しむのに対し、鷗外は御飯のおかずとして採用している訳で、何だか漱石より凄まじい気がするのは、私だけでしょうか?(笑)

 

また、茉莉によれば、鷗外は果物を次のようにして食べたと言います。

 

 独逸の衛生学にこり固まっているから、子供に生水を飲ませるな、と言い、果物も煮て、砂糖をかけて食わせた。どういうわけか林檎は煮なくてよかった。父と暮らしていた間は、二月の梅から始まって、杏、水密、深紅な桃、梨と、私たちはいつも食事の後のデザートとしてそれらの煮たのをたべた。

(森鷗外「鷗外の好きなたべもの」)

 

いわば、これは陸軍軍医として鷗外の姿。衛生学と言えば高尚ですが、現代的に言えば、まぁ潔癖症でしょう(笑)。ここからは、何となく泉鏡花を連想します。

ただ、茉莉によれば、

 

又もう一つ変わっているのは、お刺身が出ると火鉢にかけて、自分で醤油と酒少し入れてサッと煮てたべるのである。 

(森鷗外「鷗外の好きなたべもの」)

 

とありますので、鏡花ほどには、病的な潔癖症ではなかったのでしょうか。

しかしまぁ、この食べ方は、変則的ではありますが、いわば果物のコンポートと、魚のしゃぶしゃぶ

こう考えてみると、普通に美味しそうですね(笑)

 

魚と言えば、鷗外作品には、魚によって恋が叶わずに終わると言う作品がありました。

自我の萌芽と挫折が書かれた、「雁」のことです。

 

西洋の子供の読む本に、釘一本と云う話がある。僕は好くは記憶していぬが、なんでも車の輪の釘が一本抜けていたために、それに乗って出た百姓の息子が種々の難儀に出会うと云う筋であった。僕のし掛けたこの話では、青魚の未醤煮が丁度釘一本と同じ効果をなすのである。

 

「僕」が「青魚の未醤煮」、つまりサバ味噌の持つ「名状すべからざる寄宿舎の食堂の臭気」の「究極の程度」を嫌がったことで、お玉と岡田の恋は果たされず終わるのです。

鷗外は、サバ味噌に何か恨みでもあったのでしょうか?(笑)

 

私などは、この時期に、濃い目に煮いたサバ味噌を、熱燗で一杯やることを、非常に良いものだと思っているのですが……親父臭いですかね?(笑)

 

熱燗と言えば、鷗外の作品の中で、これこそ名作と名高い渋江抽斎には、奇妙な酒の飲み方が出て来ます。

その名も、「鰻酒」です(笑)

 

鰻を嗜んだ抽斎は、酒を飲むようになってから、しばしば鰻酒ということをした。茶碗に鰻の蒲焼を入れ、些しのたれを注ぎ、熱酒を湛えて蓋を覆って置き、少選してから飲むのである。抽斎は五百を娶ってから、五百が少しの酒に堪えるので、勧めてこれを飲ませた。五百はこれを旨がって、兄栄次郎と妹壻長尾宗右衛門とに侑め、また比良野貞固に飲ませた。これらの人々は後に皆鰻酒を飲むことになった。

 

蒲焼のたれ、鰻の旨味、脂、そして香ばしさが酒(日本酒でしょう)に混ざる訳です。おでんの汁を日本酒で割って飲む人もいますから、まぁありと言えなくもないのでしょうけれど、私はちょっと遠慮したい(笑)

 

鷗外の誕生日を祝う酒です。ちょっと良いものを……そうですね、シャンパなどはいかがでしょう?

 

 渡辺はすわったままに、シャンパニエの杯を盛花より高くあげて、はっきりした声でいった。
“Kosinski soll leben !”

(森鷗外「普請中」)

 

シャンパンを飲みすぎたら、酔い覚ましには、饅頭茶漬け……ですかね?(笑)

 

 

森鴎外「雁」、「渋江抽斎」、「普請中」は青空文庫で読むことが出来ます。よろしければどうぞ。

森鴎外 雁

森鴎外 渋江抽斎

森鴎外 普請中