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コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

作家とビスケット~夏目漱石を軸として~

本日二月二十八日ビスケットの日です。

これは、全国ビスケット協会により制定されました。一八五四年に水戸藩の萩信之助から依頼を受けた長崎在住の水戸藩柴田方庵によって、一八五五年二月二十八日に日本初のビスケットの製法を書いた文書が、水戸藩に送られたことビスケットの語源が「二度焼かれたもの」であることから、二月二十八日をビスケットの日にしたそうです。

 

柴田方庵 - Wikipedia

 

www.biscuit.or.jp

 

そういえば、日本が長い鎖国を解いたのが一八五四年です。こうしてみると、ビスケットは、開国を象徴する食品であるとも言えますね。

 

本日はビスケットの日ということで、作家とビスケットについて取り上げたいと思います。

 

夏目漱石

漱石と言えば、既に当ブログでも何度も紹介している通り、日本が誇る甘党文豪の筆頭格です。そんな漱石は、三三歳からイギリスに官費留学します。その留学のエピソードなどを元に書かれた自伝的長編「道草」に、次のような記述があります。

その健三には昼食を節約した憐れな経験さえあった。

(略)
 ある時の彼は町で買って来たビスケットの缶を午になると開いた。そうして湯も水も呑まずに、硬くて脆いものをぼりぼり噛み摧いては、生唾の力で無理に嚥み下した。

官費留学生で、金銭的に余裕がなかった漱石。書簡などにもその苦悩が伺えます。必要に駆られて「昼食の節約」をせざるを得なかった訳です。

しかし、ここで選択するのが、お菓子であるビスケットという所に、甘党文豪としての面を強く感じます(笑)

 

夏目漱石 道草

 

芥川龍之介

漱石門下、”木曜会”の一人であり、現在でも大変人気のある文豪芥川。実は、芥川にも漱石と似たビスケットのエピソードがあります。

芥川の江南訪問記「江南遊記に、次のような記述があります。

やつと霊巌山へ辿り着いて見たら、苦労して来たのが莫迦莫迦しい程、侘しい禿げ山に過ぎなかつた。(略)私は霊巌寺の朽廊に、粛粛たる雨の音を聞きながら、七級の廃塔を仰ぎ見た時、古人の名句を思ふよりも、しみじみ腹の減つた事を感じた。

我我は寺の一室に、ビスケットばかりの昼飯をすませた。が、一応腹は張つても、精力は更に恢復しない。私は埃臭い茶を飲みながら、妙に悲しい心もちがして来た。

 

甘党と言えども、ビスケットだけというのには耐えられぬ、と言った具合で、悲壮感が漂っています(笑)

 

上海游記・江南游記 (講談社文芸文庫)

上海游記・江南游記 (講談社文芸文庫)

 

 (芥川作品に珍しく、青空文庫にないので驚きました。)

 

③内田百閒

しかし、状況が変われば話は別なようで、同じく漱石門下の一人である百閒のビスケットのエピソードは、何とも優雅なものです。百鬼園日録」に、次のような記述があります。

朝の支度は、起きると先づ果物を一二種食ふ。梨や林檎は大概半顆宛、桃は大きくても小さくても一つ宛食べる。桃の身は濡れてゐて辷り込むから食つてしまふのである。それと同時に葡萄酒を一杯飲む。大變貴族的な習慣で聞きなりはいいが、常用の葡萄酒は日本薬局方の所謂赤酒である。問屋からまとめて買ふので一本五十二銭である。

(略)

郵便や新聞を見終る前に、ビスケットを齧つて牛乳を飲む。これで朝飯を終るのである。ビスケットは英字の形をした餘りあまくないのを常用してゐる。アイやエルは劃が少いので口にいれても歯ごたへがない。ビイやジイは大概腹の穴が潰れて一塊になつてゐるから口の中でもそもそする。さう云ふ色色な形を指先で選り分けて摘んで食べる。

百閒がどう弁解した所で、朝から酒を飲むなど貴族趣味を感じざるを得ませんが(笑)

 

ここでの”英字ビスケット”に関する百閒の記述は、中々面白いですね。ビスケットではありませんが、私は給食の時に、アルファベットの形をしたマカロニ入りのミネストローネを食べた記憶があります。百閒ほど明確にではありませんが、形によって、確かに食感の違いのようなものは感じたような気もします。

 

そういえば、本日Twitter岡山県”シガーフライ”というビスケットが話題になっておりました。この「シガー」の由来は煙草であり、その名の通り”シガーフライ”は葉巻の形をしています。

百閒は岡山県の出身で、煙草好きとして有名(ちなみに、漱石も芥川も煙草好きでした)。百閒も、もしかしたら”シガーフライ”を食べていたかもしれませんね。

 

私の「漱石」と「龍之介」 (ちくま文庫)

私の「漱石」と「龍之介」 (ちくま文庫)

 

 

御馳走帖 (中公文庫)

御馳走帖 (中公文庫)

 

 

今回は、漱石と門下生のビスケットエピソードを紹介しましたが、ビスケット好きの作家は他にもおります。代表的なのは、森茉莉でしょうか?

 

ビスケットとクッキー、ついでにサブレの違いはよく分かりませんが(笑)、何となく硬くて歯ごたえの良いのがビスケットであると考えております(クラッカーは甘くないので別枠です)。

まぁ、ここら辺は好みですよね。

 

ちなみに、私はビスケットと言えばたべっ子どうぶつ”ミレービスケット”なのですが、皆さんはいかがでしょうか?

 

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常備しているので、写真があります(笑)