コォヒィの文学小話

都内大学に通う国文学生が、自身の読書の記録を中心に、「本」に関する話題を書いています。

芥川賞受賞作、沼田真佑「影裏」評

先日行われた第157回芥川賞直木賞の選考において、沼田真佑「影裏」が芥川賞を受賞しました。

 

芥川賞受賞作は「文藝春秋」に全文掲載されるのが通例ですから、それまでまとうかとも思ったのですが、その「文藝春秋」がちっとも出やしない(笑)

ですので、文学界新人賞受賞作として「文学界」5月号に掲載された際のものを読むことにしました。

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この時の文学界新人賞の選考委員は「親指Pの修行時代」の松浦理英子、「怒り」の吉田修一、「乳と卵」の川上未映子、「インストール」の綿矢りさ、「道化師の蝶」の円城塔です(松浦と綿矢以外は正直嫌いな作家です)

 

まぁ賞の選評なんてものは最早「何か面白いことを言っていたらいいな」くらいのもので(芥川賞山田詠美の選評はそれを狙いすぎて、つまらない上に最早サムイ)、あまり参考にするものでもありませんかね?

 

「影裏」については一応皆さん高評価を下しています。芥川賞の選評ではどのように転がることでしょうか。

 

 

さて、それでは「影裏」とはどのような作品か、簡単にあらすじを説明した上で、私自身の「影裏」についての感想を書こうと思います。

 

それではあらすじです。構成としては全三章となっています。

 

主人公の〈わたし〉は今野といいます。〈近ごろではわたしは暇さえあればここ生出川に釣りをしに出かけている〉とあるように、作品の舞台は岩手県で、釣りを趣味とする社会人です。

釣りの相方は日残という会社の同僚です。日残は〈何か大きなものの崩壊に脆く感動しやす〉い人物として今野は認識しています。

 

日残はある日突然会社を退職し行方を暗ましますが、二ヶ月後、今野と日残は偶然再会します。日残は既に再就職していました。

再び交遊を始める今野と日残、作中ではそれについても書かれますが、ここは省略。

 

そして震災以後の話になります。日残はどうやら死んだらしいが、家族(父)は日残とは縁を切ったとし、捜索願を出そうとしない。

日残の父と別れた今野は生出川に行き釣りをします。そこで〈濃い倦怠〉を感じた今野は釣りをやめ、生出川の上流へと歩き始める、という場面で、作品は終わります。

 

 

ここからは私の感想です。

 

・今野は日残を〈何か大きなものの崩壊に脆く感動しやす〉い人物として書いたり、日残の父によって語られる幼少期の日残の不気味さなど、他にもいくつかあるのですが、意味深な設定をしておきながらそれらが十分に活かされていないように感じます。

 

・文体について。まぁ端正といえば端正ですし、説明過多を避け、省略を意識している。レベルは高いですが、悪く言えば個性も魅力もなく退屈ですし、書くべきところを書いていない。例えば、まぁこれは当然の疑問ですが、震災に際し日残がどのようなことを思ったか、今野は当然考えるはずです。

 

・松浦はこの作品をマイノリティの文学としますが、私には単に震災による喪失を描いた作品で、何がどうマイノリティなのかさっぱり分からない。

 

と、ここまで書いてきたように、私は「影裏」をあまり評価していない訳です(笑)

ファンの方々には申し訳ないですが。まぁ文章力は確実にありますから、今後の活躍は期待できるかと思います。